責任準備金対応債券に関して

まとめておかないと忘れてしまうので。

実務にまだ携わっていない個人の認識ですので、もしかしたら間違っているところがあるかもしれません。

 

 

概要

この日記で書く大きな流れとしては

 

金利変動による財務諸表への影響に何とか対応したい

・保険会社からの要望により責任準備金対応債券が生まれた

・ペナルティーも(比較的)軽くて使いやすい

 

という感じです。

よろしくお願いします。

 

 

背景

金利変動がもたらす資産と負債のミスマッチの影響をできるだけ小さくしようという動きがあり、その一つとして経済価値ベースのソルベンシー規制の導入があります。

責任準備金の計算基礎率はロックイン方式なので、負債については簿価評価されるのに対し、資産については株式、債券によって運用されるため時価評価となるものもあります。このため、当初の予測から市場利率が大きく変化したときにサープラスの増減が発生することとなります。ALMでは資産と同じように負債を時価評価しようというモチベーションがあり、資産と負債のデュレーションを合わせることでサープラスの分散を最小化しようという考えがあるようです。デュレーションを合わせられると、利率変化による影響が同じ方向に連動して働くこととなるために分散が最小化する、と理解しています。

しかし一般に生命保険会社においては資産のデュレーションよりも負債のデュレーションの方が長くなります。保険期間は何十年、場合によっては一生というものもあり、非常に長期の契約となるのに対し、市中に存在する金融商品はそれだけ長い満期を持たず、長いもので40年国債という認識をしています。このミスマッチのために何らかの対応を取ることが求められている、というのが背景としてあります。

 

 

満期保有目的債券による対応

かんぽ生命やソニー生命では満期保有目的債券を用いて対応していました。生命保険会社の保有する債権はALM目的とするものが多いのですが、満期保有目的債券は償却原価法で評価するため、時価評価をしない資産ということになります。これは負債が簿価評価であることからALMの考え方と整合的であると言えます。

満期保有目的債券の欠点は金利上昇局面で表面化します。金利が上昇すると予定利率よりも市場利率が高くなることがあり得ます。そうなると契約者としては契約している保険から他の金融商品に乗り換えた方がお得、ということとなり、生命保険会社は契約を解約されてしまうということになります。解約には解約損益や解約控除といった論点が挙げられますが、ここでは解約返戻金を払い戻すための流動性が議論となります。

一般に保険契約を解約する際には解約返戻金を払い戻すこととなっています。

 

保険法 第63条

保険者は、次に掲げる事由により生命保険契約が終了した場合には、保険契約者に対し、当該終了の時における保険料積立金を払い戻さなければならない。ただし、保険者が保険給付を行う責任を負うときは、この限りでない。

 

 

 

生命保険会社は契約者の資産を金融商品によって運用しているので、契約者にすぐ払い戻せる形として持っている部分は少ないのです。金利が上昇して解約が増え、解約返戻金を大量に支払わなければならないという状況になると、保有する金融資産を現金化する必要性が生じます。満期保有目的債券は償却原価法で評価しているため、売却するときには売買目的有価証券に振り替えるとともにその含み損が実現することとなります。その結果、貸借対照表に大きな打撃を与えることとなります。

保険期間が長期となる生命保険契約では「満期保有目的債券はちょっとなあ」となるわけです。

 

話が飛んでしまいますが、そもそも利率上昇局面で保険契約を解約されないための対応として、予定利率を市場利率と変動させたり、あるいは解約返戻金を支払うための流動的な資金需要に応えるためにちゃんと投資できなかったから、その分は契約者が負担しなさいという名目で解約返戻金から市場利率に対応した幾らかを差し引くMVA(Market Value Adjustment)といった商品設計を行なったりすることが考えられます。

 

 

責任準備金対応債券の導入

上で見たように生命保険会社の財務には、

 

・責任準備金がロックイン方式で評価される

・超長期の債権を多く保有する

・本当に長期の負債に対応する金融商品が存在しない

 

という特性があります。これを受けて責任準備金対応債券が導入され、業種別監査委員会報告第21号において責任準備金対応債券とみなされるための要件が示されています。

 

1. リスク管理を行う管理・資産運用方針を策定していること

2. リスク管理体制が適切に整備・運用されていること

3. 小区分の設定と管理

4. デュレーションマッチングの有効性の検証と定期的検証

5. 金利変動に伴って価格が変動する債券で、変な債券(劣後債券や格付けが悪い債券)ではないこと

 

ここで個人的に感じた疑問は

 

・結局資産と負債のデュレーションが合わないのではないか

・小区分って何すか

 

というものです。会計士の人にぶつけてみました。

小区分というものは区分経理上の商品区分や保険種類ごとに考えるものではないようで、例えば30~40年後の負債キャッシュフローに対応する部分、というように設定するようです。加えて超長期の負債キャッシュフローに対する部分はレバレッジをかけて資本を拡充していくことで対応するみたいです。

有効性判定要件にも関わってくるのですが、管理のしやすさという点で優れているという話で、ALMの考え方と整合的ではあるがALMを完全に実現できるわけではないという点に注意する必要がありそうです。

有効性があると認められるためには、原則として小区分内においてデュレーションマッチングが±20%のレンジに入っていることが求められます。もし外れてしまったとしても、

 

・小区分内の債券をその他有価証券に振り替えなければならない

・2事業年度の間、小区分の変更や新規の責任準備金対応債券の指定に制限がかかる

 

のみであり、他の小区分に影響を及ぼさないこと、小区分内のペナルティーも2事業年度に限られているという点で偉いというわけです。

責任準備金対応債券は保険会社にのみ認められたというだけあって使いやすいものとなっており、ありがてえありがてえという話ですね。

 

ちなみに満期保有目的債券、責任準備金対応債券の他にも包括ヘッジを活用している会社もあります。

 

 

その他

デュレーションマッチングというのは、経済価値を金利で展開したときの一次の項を合わせるという考え方で、二次の項(コンベキシティ)の一致までは考えていません。よって金利が大きく変化したときにサープラスの変動は大きくなることがあり得ます。このような変動があるから、と諦めてちまちま調整するのが良いか、ちゃんとしたモデルを組み立ててある程度の変動でも有効性条件を満たすようにしておくのとではどちらが良いのでしょうね。後者の方がALMちゃんとしてそう、と言いたいものですが、この合理的な説明を与えるのが株価のボラティリティーという観点です。

ちまちま投資資産構成を変えることは、株価ボラティリティーの増加というデメリットとして跳ね返ってきます。資産と負債を合わせてみましょう、という考え方も経営上の観点の一つでしかなく、ALMと株価のボラティリティーを合わせてみましょう、もっと他のトレードオフについても考えてみましょう、ということなんだなと思いました。

 

こういう日記、書きたくなったらまた書きます。

ここまで読んでくださりありがとうございました。