1-8 再保険
1-8「再保険」について見ていきます。
「損保数理でやった〜知ってる〜」と言ってホゲホゲ読んでいるといつの間にか置いていかれます。ちなみに注意深く読んでも置いていかれます。
表現や説明が難しい分野であることは間違いなく、私も上手い文章は書けないかもしれませんが、ちゃんと読んでもらえたら理解してもらえるように頑張ります。右も左も分からない準会員を想定して書いているので、試験で同じ文章を書くと試験委員にはあまり良い印象は持たれないでしょう。教科書に何が書いてあるかを理解するための、あくまで補助的な資料として活用していただければと思います。
また、ここではわかりやすく元受保険会社、再保険会社という表記をしていますが、教科書では正確な表現として出再保険会社、受再保険会社という表現をしています。正確なのですがよく読み間違えるので注意してください。
1-5変額年金保険についてまとめたとき、12000字くらいで数日潰れたので、さっくりまとめていこうと思います。あと毎度間違っているところがあったらすみません。
概要
今回の日記の流れとしては、
・なんのための再保険か
・再保険以外の手段
という感じです。それではよろしくお願いします。
再保険の目的
再保険とは、保険会社が加入する保険のことです。損保数理では、再保険加入によって保険会社の破産確率を減らすことができるということを学びました。実務ではもっといろんなことに活用されています。まずは目的から見ていきましょう。
元受保険会社が再保険を契約する目的として、伝統的、非伝統的という区分をしています。個人的には経済実質的、会計経営的というように読み替えています。このうち伝統的な目的から見ていきます。
伝統的な目的
まずは、元受保有限度を超過する額を出再するという目的があります。個人で保有できるリスクに限度があるのと同様に、元受保険会社にもリスクの保有限度があります。手持ちのお金500円なのに数億円規模の保険金をもつ保険契約は扱えないですよね。
また、保険会社からすると、みんな保険金額500円なのに1人だけ保険金額数億円というのもよくないですよね。どうよくないかを言語化すると、保険業の基礎である大数の法則が働かないということです。この保険金額が大きい人が死亡するとすぐ破産しそうです。こういう問題を回避するために、まず保有限度額を大数の法則が機能する水準に設定し、競合上の観点から定められた最高保険金額との差額を再保険に出すということをしています。
また、集積リスクの移転にも利用されます。大数の法則は、各サンプルが独立であることを要求しますが、独立性が保たれないときは巨額の支出が発生しえます。これを回避するために再保険が活用されます。地震や台風のような災害死亡によって特定の地域に集中的な被害をもたらした場合に集積リスクが発現します。
保険経営の安定を図るために、一定額を超えた部分の保険金支払いを再保険会社に肩代わりしてもらうという契約をします。
他に、未経験リスクの移転という目的もあります。新しい保険やリスク細分化保険の発売がそれです。
最も信頼することができる自社データが存在しないため、元受保険会社が算定した保険料率は正確なものではない可能性が高いでしょう。しかし、再保険会社はいろんな保険会社のデータを持っているため、一般に元受保険会社よりも豊富なデータを持っています。そういった再保険会社と再保険契約を締結すると、元受保険会社としてはミスプライシングリスクを軽減することができ、再保険会社としては既知のリスクの保険を引き受けることで収益を得られるということですね。
再保険会社が豊富なデータを持っているということは元受保険会社よりも精度の良い安全割増を行うことができるということで、再保険会社が提供する保険料率は元受保険会社の保険料率よりも低廉なものとなることが多く、再保険会社に再保険を出再することで元受保険会社は契約者に低廉な保険料率を提供することができます。
ということで、元受保険会社の保有限度額を超過する部分の出再、保険金支払の集積リスクの移転、未経験リスクの移転、競争的な料率提供という目的を総称して伝統的な目的としています。
非伝統的な目的
再保険の活用によって、財務諸表を改善する効果が期待できます。保険金支払を再保険によって平準化することで収益の安定、ソルベンシーマージン比率の改善が見込まれることは直感的にわかりやすいかと思います。
後述する財務再保険は、再保険契約時点で将来収益に相当する額を手数料として元受保険会社に渡す内容になっているので、契約開始時点で締結すれば新契約費による圧迫から解放されることになります。特に、設立からまもない保険会社の場合は、初年度に自由に扱える資金を確保することができるので、効率的に資本を活用することができ、事業をより早く成長させることができます。
これは株式会社が成長する仕組みと同じですね。人から資金をもらって成長して、収益が出たらお金出してくれてありがとうとリターンを返すのが株式会社ですが、効率的な資本活用が事業を促進させる良い例でしょう。自力で資金を確保してから事業を始めるようでは、集めるまでに何年もかかって時機を逃してしまう上、成長速度も比較的遅いです。資金は人から集めて後で返すと効率的、という考えは株式会社、国の補助金をはじめ、再保険においても同じです。効率的な資本活用は資本収益率の向上にも貢献します。
また、この手数料はどのタイミングで受け取るかを再保険会社との合意があれば自由に選択することができるので、収益認識のタイミングの変更を期待できます。
また、財務諸表の改善にも関連しますが、特定のビジネスゴールを達成することも目的することがあります。新契約費を抑制できることで、資本の減少や増資の必要性を抑制できます。新設間もない会社にとっては嬉しいですね。
収益が安定することによって、課税所得が平準化します。繰越損失の適用期間が終了する前に収益が計上できれば、現時点では収益の前倒しによる収益の増加はある一方で繰越損失によって損失を計上できるので、節税にもつながります。
また、高いソルベンシーマージン比率や高い収益性、収益が安定していることは外部関係者の目から見て「いい会社だな」と思われますね。すると格付け会社から高い評価を得られて、投資家の目に留まりやすくなりますね。
収益が安定していれば、将来収益が予想しやすく、客観的な価値が算定しやすくなります。これは円滑な買収及び株式会社化に貢献します。
付随的な目的
付随的な目的として、再保険会社の豊富な経験、知識を活用することがあります。元受保険会社と再保険会社が共同で保険商品開発をして、「情報提供感謝やで」と報酬的な意味で再保険に出再し、「ええんやで」ということもあるでしょう。
また、再保険は元受保険会社の一定の損失を保険事故としているため、保険会社の再保険引受には制限がかけられています。
どういうことかを理解するために、まずは保険業第3条第4項を引用します。
生命保険業免許は、第一号に掲げる保険の引受けを行い、又はこれに併せて第二号若しくは第三号に掲げる保険の引受けを行う事業に係る免許とする。
一 人の生存又は死亡に関し、一定額の保険金を支払うことを約し、保険料を収受する保険
二 次に掲げる事由に関し、一定額の保険金を支払うこと又はこれらによって生ずることのある当該人の損害をてん補することを約し、保険料を収受する保険
イ 人が疾病にかかったこと。
ロ 傷害を受けたこと又は疾病にかかったことを原因とする人の状態
ハ 傷害を受けたことを直接の原因とする人の死亡
ニ イ又はロに掲げるものに類するものとして内閣府令で定めるもの
ホ イ、ロ又はニに掲げるものに関し、治療を受けたこと。
三 次項第一号に掲げる保険のうち、再保険であって、前二号に掲げる保険に係るもの
一は生命保険、二は医療保険、三は再保険のことです。三で次項が参照されているので、保険業第3条第5項についても一旦目を通しておきましょう。
損害保険業免許は、第一号に掲げる保険の引受けを行い、又はこれに併せて第二号若しくは第三号に掲げる保険の引受けを行う事業に係る免許とする。
一 一定の偶然の事故によって生ずることのある損害をてん補することを約し、保険料を収受する保険
二 前項第二号に掲げる保険
三 前項第一号に掲げる保険のうち、人が外国への旅行のために住居を出発した後、住居に帰着するまでの間における当該人の死亡又は人が海外旅行期間中にかかった疾病を直接の原因とする当該人の死亡に関する保険
一は損害保険、二は医療保険、三は海外旅行の保険です。海外旅行の保険はFP受けたときにそんなのあるんだ程度でサラッと流したので覚えてません。思い出したら日記にします。
整理すると、生命保険会社が引き受けることのできる再保険は、「一定の偶然の事故によって生ずることのある損害をてん補することを約し、保険料を収受する保険」のうち、「人の生存又は死亡に関し、一定額の保険金を支払うことを約し、保険料を収受する保険」または「次に掲げる事由に関し、一定額の保険金を支払うこと又はこれらによって生ずることのある当該人の損害をてん補することを約し、保険料を収受する保険」に関係するものということです。
つまり、再保険は元受保険会社の損失を保険事故とするものですが、その損失が発生した原因について、生命保険または医療保険による損失であることが必要ということです。よって、元受保険会社の保険金支払と再保険会社の保険金支払が連動している比例式再保険は生命保険会社が引き受けることができますが、非比例式再保険については生命保険会社は引き受けることができません。
一方で、損害保険会社は「一定の偶然の事故によって生ずることのある損害をてん補することを約し、保険料を収受する保険」であればよく、生命保険や医療保険に係る損失に限定するといった条項はないので、比例式再保険、非比例式再保険のいずれも引き受けることが認められています。
一旦ここまでのことを頭に入れておいてください。
この後の議論はここまでの知識を前提としているものが多いです。
財務再保険
伝統的目的のもとでの再保険、非伝統的目的のもとでの再保険という目的の種類で再保険を区分することがあります。そして、平たくいえば非伝統的目的を達成する上で有効な再保険が財務再保険です。
非伝統的目的に関わり深い法律から見ていきましょう。法律がすべてを語っています。
保険業法施行規則第71条
保険会社は、保険契約を再保険に付した場合において、次に掲げる者に再保険を付した部分に相当する責任準備金を積み立てないことができる。
一 保険会社
二 外国保険会社等
三 法第二百十九条第一項に規定する引受社員であって法第二百二十四条第一項の届出のあった者
四 外国保険業者のうち、前二号に掲げる者以外の者であって業務又は財産の状況に照らして、当該再保険を付した保険会社の経営の健全性を損なうおそれがない者
2. 保険会社は、保険契約を金融庁長官が定める再保険に付した場合において、当該再保険に付した部分に係る保険契約から当該再保険に付した後に発生することが見込まれる収益を基に計算した手数料を収受したときは、当該収受した金額を責任準備金として積み立てなければならない。
3. 保険会社は、保険契約を前項の規定による金融庁長官が定める再保険以外の再保険に付した場合において、当該再保険から前項に規定する手数料を収受したときは、当該収受した金額を預り金として計上しなければならない。
第2項で述べられている「金融庁長官が定める再保険」は財務再保険と呼称され、平成10年大蔵省告示第233号で定義されています。
平成10年大蔵省告示第233号
第1条(財務再保険)
保険業法施行規則第71条第2項に規定する金融庁長官が定める再保険は、保険会社が保険契約を再保険に付した場合において、当該再保険に付した部分に係るすべてのリスクを移転することを約し、当該再保険に付した部分に係る保険契約から当該再保険に付した後に発生することが見込まれる収益を出再保険受入手数料としてあらかじめ収受する再保険であって、次に掲げるすべての要件に該当するものをいう。
一 受再保険会社が、国内及び海外の監督当局から再保険に係る事業免許を付与された保険会社であって、適格格付業者からAA-又はAa3の格付以上の格付を付与されている保険会社であること。
二 元受保険会社が受再保険会社から収受する出再保険受入手数料は現金によるものであること。
三 再保険契約が、出再保険群団がすべて消滅した場合又は元受保険会社による中途解約が行われた場合に限り、消滅するものであること。
四 受再保険会社による一方的な解約は、元受保険会社の再保険料の不払いによる場合を除き、できないものであること。
五 元受保険会社を清算し、保険契約をすべて消滅させる場合において、元受保険会社は、残存している出再保険群団の損失額を受再保険会社に支払う必要がないものであること。
六 元受保険会社が合併又は包括移転により保険契約を他の保険会社に引き継ぐ場合において、当該再保険契約が契約条件を変更せずに当該他の保険会社に引き継がれるものであること。
七 元受保険会社と受再保険会社の間の決済が、少なくとも3月に1回は行われるものであること。
2. 受再保険会社が、前項第1号に規定する格付を付与されていない場合においても、当該受再保険会社の業務又は財産の状況等に照らし、出再保険会社の経営の健全性を損なうおそれがないと認められるときは、同号に掲げる要件に該当するものとみなす。
第2条(種類)
財務再保険の種類は、次に掲げる2種類とする。
一 共同保険式再保険
二 修正共同保険式再保険
2. 前項第1号に掲げる共同保険式再保険とは、受再保険会社が、元受保険契約に係るリスクのうち、当該再保険に付された部分に係るすべてのリスクを出再割合に応じて引き受け、当該引き受けた部分に係る責任準備金の積立て及び当該責任準備金に相当する額の資産の管理を行うものをいう。
3. 第1項第2号に掲げる修正共同保険式再保険とは、受再保険会社が、元受保険契約に係るリスクのうち、当該再保険に付された部分に係るすべてのリスクを出再割合に応じて引き受け、当該引き受けた部分に係る責任準備金の積立てを行い、元受保険会社が当該責任準備金に相当する額の資産の管理を行うものをいう。
それでは解釈していきましょう。
まず、共同保険式再保険について軽く説明する必要があります。共同保険式再保険とは、元受保険会社が契約者から引き受ける条件と全く同じ条件で、再保険会社が元受保険会社から保険を引き受けるものです。基本的には比例方式が採用されるので、保険料、保険金、解約返戻金、事業費等がすべて同質で、出再割合によって元受負担のうちどれだけの割合を再保険会社が負担及び収受するかが決まるということです。
例えば、出再割合が100%であれば元受保険会社は存在するだけ邪魔な伝書鳩みたいな存在になるということですね。出再割合が50%であれば2社が全く同じ質、量を持ったリスクを保有する状況ということになります。
誰でも思いつきそうな再保険形態です。
次に、平成10年大蔵省告示第233号です。
第1条は財務再保険とは何かを説明しています。出再保険受入手数料を将来収益に基づいて算定することを前提として、一から七に挙げられている要件を全て満たすものが財務再保険と呼ばれるとしています。第2条ではその財務再保険は共同保険式再保険と修正共同保険式再保険のみに限られるとしています(逆に共同保険式再保険及び修正共同保険式再保険のすべてが財務再保険というわけではないので注意です)。
出再保険受入手数料とは、基本的に再保険会社から元受保険会社に渡される手数料です。元受保険会社として、ここでは新設間もない会社を想定しましょう。保険契約をとってきたら初年度に新契約費がドカッとかかる会計制度をしているため、契約初年度は保険料収入少ない、自己資本も少ない、それでも新契約費はかかるという状況で責任準備金を積み立てる必要があります。共同保険式再保険は、元受保険会社の「責任準備金積立の原資が欲しい」という要求に応えるため、引き受けた部分から生じるであろう将来収益を前渡ししているということです。すると、新設間もない会社であっても契約初期に資金を得ることができ、責任準備金の積立原資とすることができるわけです。このように再保険を活用して資金を調達するものをreinsurance financeと言います。
財務再保険は財務面の目的のもとで活用される再保険ということですね。しかし、契約初期に将来得られるはずだった収益を前借りしすぎると、契約後期になって収益があまりないのに責任準備金の積立が求められるという首が回らない状況になりかねません。保険用語で言うと「責任準備金の積立不足」と言う状況になりかねないと言うことです。そのため、このような資金調達をするためにはいろんな条件を満足することが求められています。
これを念頭に置いて、第1条の条件を見ていきましょう。
まず、「再保険に付した部分に係る保険契約から当該再保険に付した後に発生することが見込まれる収益を出再保険受入手数料としてあらかじめ収受する再保険」であることが前提となっており、出再保険受入手数料が将来収益に基づいて算出されていることが必要となります。「だいたいこれくらい!えいや!」で出再保険受入手数料を決めた場合は財務再保険とは認められないと言うことに見えますが、実情は少し違うようです。出再保険受入手数料の額は基本的に将来収支の現在価値を基準として、双方の合意のもとで定められますが、その額が新契約費の出再割合部分を大きく超える場合はその合理性が求められます。これが将来収益を先払いしているとみなされる場合は、責任準備金の積立不足に関する懸念が表面化するため、財務再保険とみなした上でその規制(監督官庁への届出や開示)を受ける必要が生じます。そのため、必要がない場合には財務再保険に該当しないように条件を設定する必要があります。
一の条件は再保険会社の格付けについてです。ちゃんとした会社であってくれよ、という条件ですね。なお、第2項において、格付けとして具体的な指標がなくとも業務又は財産の状況に照らして、元受保険会社の経営の健全性を損なう恐れがないと認められるときはこの条件を満たしているとみなされます。
二の条件は出再保険受入手数料を現金でやり取りしてください、というものです。保険業法施行規則第71条の方の解釈でも言及しますが、保険業法施行規則において、財務再保険における出再保険受入手数料は責任準備金積立の原資にしなさいということが明記されています。責任準備金の原資に当てられる資産は、契約者保護の観点からちゃんとした裏付けがあって欲しいですよね。現金であれば流石にその問題ないだろう、ということですね。
三の条件はそのまんまですね。再保険契約が消滅するのは、再保険を付けた保険契約がそもそも全部なくなっちゃった場合、および元受保険会社が「やっぱ大丈夫っす」と解約した場合に限られるということですね。元受保険会社が再保険会社に責任準備金積立原資をくださいとお願いしている再保険形態なので、元受保険会社がいらないといったら再保険会社側は引き止める理由がありません。
四の条件についてもそのまんまで、再保険会社からの一方的な解約は元受保険会社の再保険料不払いを除いてできないものであることです。保険者側よりも契約者側の権利が強いのは再保険でも同じということですね。
五の条件は清算時に元受保険会社が再保険にかかる損失額を再保険会社に支払わなくてもいいとするものです。わかりづらいですが、出再保険受入手数料が将来収益に基づくものである一方で、破産清算時においては得られるはずだった将来収益がなくなってしまうわけです。再保険会社は「いや清算時以降の収益に相当する出再保険受入手数料返せよ」と元受保険会社に言いたくなりがちですが、それはできないよ、ということですね。知識経験が豊富な再保険会社が契約したんなら、元受保険会社が破産して回収できなくなっても後悔すんなよということです。
六の条件もそのまんまですね。元受保険会社が合併または包括移転によって保険契約についても引き継がれる場合は条件の変更なくそのまま引き継がれることを求めるものです。
七の条件は決済が3ヶ月に1回行われることを求めています。二の条件と合わせて四半期決算時点においてきちんと裏付けのある資産を元受保険会社が入手できる状況を確保するための条項であると解釈しています(四半期決算を意識しているならそう書けばいいのにと思いますが)。
財務再保険を用いた保険会社の多くが経営破綻に陥ったことから、通常は風評リスクを考慮して財務再保険に該当しないように再保険契約を構築します。
前提条件たる、「再保険に付した部分に係る保険契約から当該再保険に付した後に発生することが見込まれる収益を出再保険受入手数料としてあらかじめ収受する再保険」に該当しないようにします。新契約の出再においては、新契約費の出再割合部分という目安がありましたが、既契約の出再においては出再保険受入手数料を設定しない取引とします。経済実質的には、再保険料を出再保険受入手数料によって相殺している状態となりますが、出再保険受入手数料がある場合は将来収益の先払いと見做されかねないというわけで、再保険料と出再保険受入手数料をともに0とすることで規制の問題をクリアしているみたいです。なんかちょっとずるい?
第二条は財務再保険は共同保険式再保険と修正共同保険式再保険に限定する条項です。
共同保険式再保険は全てのリスクを出再割合に応じて元受保険会社と分担するもので、再保険会社が責任準備金の積立及び対応する資産の管理を行います。
修正共同保険式再保険は共同保険式再保険のうち、責任準備金に対応する資産の管理を再保険会社でなく元受保険会社が行うとしたものです。
再保険の種類の章で詳述します。
さて、保険業法施行規則第71条に戻りましょう。
「保険会社は、保険契約を再保険に付した場合において、次に掲げる者に再保険を付した部分に相当する責任準備金を積み立てないことができる」とあることから、元受保険会社からすると、再保険契約を締結することにより責任準備金が削減されます。これは嬉しいですね。
しかし、再保険契約を締結すると見込んでいた将来収益を犠牲にすることになるため、再保険のつけ過ぎにも注意が必要です。財務再保険の場合も例外なく注意が必要で、出再保険受入手数料として責任準備金積立の原資のために将来収益を前借りしているため、出再保険受入手数料はきちんと責任準備金の積立のために使いなさいというのが第2項の言っていることです(出再保険受入手数料の受取に際して元受保険会社が保有する部分の責任準備金とは別に責任準備金を立てて積み立てるというわけではないです)。換言すれば、財務再保険における出再保険受入手数料の使途は元受保険会社が保有する部分の責任準備金の積立に限定されています。8-13の表におけるAですね。
将来収益に基づく出再保険受入手数料を収受しているが、大蔵省告示第233号第1条の一から七の条件のいずれかを満たさない場合は財務再保険に該当しないことになります。このとき、出再保険受入手数料は収益認識することができず、預かり金(負債勘定項目)として計上することになります。8-13の表におけるBです。
一方で、出再保険受入手数料を将来収益を基礎とせずに決定した場合は、8-13の表のCに該当し、なんの規制も受けないことになります。ということで、Bに該当して変な規制を受けるよりはCにしてしまった方が自由ということだと思います。実際、告示発出直後にBの例は数例見られただけに留まり、その後は基本Cの再保険が主流であるようです。
しかし、なんの規制も受けないとはいえ、変な再保険契約を締結することは契約者保護の観点から望ましくありません。保険計理人は、再保険の実施及び毎年の将来収支分析において再保険が財務面に与える影響を分析して経営者に報告することが必要となるとともに、会計監査人に十分な説明を行なってちゃんと再保険であることを認識してもらうことが求められます。
再保険の種類
生命保険会社が引き受け可能かどうかという観点から、比例式と非比例式に区分します。生命保険会社が引き受けることができる比例式再保険には危険保険料式再保険、共同保険式再保険、修正共同保険式再保険があり、生命保険会社が引き受けることができない非比例式再保険にはエクセスオブロスカバー(ELC)、ストップロスカバーがあります。
危険保険料式再保険
元受保険契約の形態に拘らず、再保険契約が自動更新一年定期保険となっている形態です。単純な仕組みであるがゆえに事務管理も容易で、広く利用されています。再保険料率についても一年定期保険の料率が使用され、保険期間が短いことから予定利率は考慮されません。一応、期中の契約内容変更に対する事務手続きの簡明化のためにYRTではなくMRTとして一月定期保険とすることもあるようです。教科書に記載されていない内容ですが、実情と乖離している部分は試験にも出しにくいのではないかと個人的には思います。
さて、比例式再保険であることを念頭に置くと、定期保険となっていることから、元受契約の契約者が死亡(または医療保険における保険事故が発生)した場合に再保険金支払が発生することがわかります。そのため、死亡率及び罹患率といった発生率関係のリスクのみが再保険によって移転されることとなり、解約失効リスクをはじめとしたその他のあらゆるリスクは元受保険会社が保有したままになります。
元受保険金額から責任準備金として積み立てられている額を控除した額が危険保険金額となるわけですが、この危険保険金額のうち出再割合に相当する部分を危険保険料式再保険として出再するということですね。責任準備金に相当する部分は元受保険会社が積み立てており、元受保険金額との差額は他の契約者の危険保険料部分や再保険金から調達して支払うことになります。
ちなみに教科書の当該部分及び2017年度試験解答のコピペされている、「危険保険金額は、理論的には出再保険金額から消滅時の責任準備金を控除した金額である」という記述は誤解を招く表現であると思われます。
参考にしたもの
危険保険料式再保険の項目に「生命再保険において、死亡危険を中心とした保険給付リスクを再保険の対象とし、元受保険金額から責任準備金を控除した金額(危険保険金額)に基づいて保有・出再額が決定される再保険方式」とあります。
4.2.3「生命再保険」の危険保険料式再保険の項目に「死亡危険を中心とした保険給付を再保険の対象とし、元受保険金額から当該契約にかかわる責任準備金を差し引いた金額をベースとして保有・出再額が決定される再保険方式」とあります。生保の教科書よりわかりやすい
1-(2)において、再保険金額は元受保険金額から責任準備金額を控除した額に出再割合を乗じている記述が正しいとされています。
(引用内の下線は筆者が付け足した)
良心的に読み取ると、元受契約における保険金額を出再保険会社にとっての元々の保険金額と同等のものと解釈し、これを出再保険金額と表現している可能性があります。再保険に出再される、再保険契約における保険金額と紛らわしいのでやめていただきたいですね。
また、責任準備金が地を這いつくばっている(ずっと低い水準で推移するという意味)短期の定期保険や、給付金支払いが発生しても契約が消滅しない医療保険の場合は、出再保険金額を元受保険金額と同様になる、と読むことができるかと思います。
なお、実務の簡素化を目的として出再保険金額を経過年数のみの関数(tとSの関数で表されることからtS式と言うらしいです)とすることもあるようです。
危険保険料式再保険では発生率関係のリスクだけが移転され、かつ通常一年定期保険であることから財務諸表に影響を与えることは難しく、基本的には伝統的目的のもとで活用されます。
元受保険会社の保有限度額を超過した部分の出再という目的のもとでは、高額支払部分の負担を移転するという形式が求められることになるため、超過額方式が採用されます。また、出再するかどうかを各契約で詳しく吟味する必要がないため、自動再保険として出再されることとなります。
条件体契約に関して、経験が豊富な再保険会社の競争的な評点の提供を受ける場合は、各被保険者の状態について吟味することとなるので任意再保険の形態を取り、比例方式で出再されます。
非伝統的な目的で出再されることもないわけではなく、保険リスクが他のリスクと比べて過大である場合は危険保険料式再保険を用いて保険リスクを抑えることにより、ソルベンシーマージン比率を改善することが期待できます。一旦再保険料率を安全な水準に設定し、高い経験割戻率によってかなり正確な再保険料率を設定することによって、再保険コストを可能な限り低廉にするという工夫がなされます。ここで「再保険契約上死亡に係る保険責任は移転しているが、実質的なリスク転嫁は行われていない」ということが指摘されています。保険リスクの減少のみを目的としている場合、保険リスクに対応する保険金支出をある程度諦めて、危険保険料式再保険を利用しているということですね。つまり、死亡に係る保険金支出を危険保険料式再保険に係る再保険料支出にしてしまえば保険リスクは減らせるけれども、実質的な支出額はほとんど変わっていない、ということが言いたいのだと思います。
共同保険式再保険
共同保険式再保険は、再保険会社が個々の出再契約に関して元受契約の契約条件と全く同一の条件で保険責任を引き受けるもので、危険保険料式再保険の対をなす再保険の概念です。危険保険料式再保険は発生率関係のリスクのみを移転するものでしたが、共同保険式再保険は事業費支出等に係るリスクを含めた全てのリスクを出再割合に応じて移転するもので、危険保険料式再保険とは異なり責任準備金や責任準備金に対応する資産の移転を伴います。誰でも思いつきそうな簡単な仕組みですが、事務管理が煩雑です。
お金の流れについて整理しましょう。
まずは元受契約です。元受契約については契約者と元受保険会社の間でなされるもので、契約者は元受保険会社に対して保険金額に応じた営業保険料を支払う代わりに、元受保険会社に契約者のリスクが移転されることとなり、保険事故が発生した場合や解約失効が発生した場合に元受保険会社は契約者に死亡保険金や解約返戻金を支払います。ここまではいろんなところで学んだ通りです。
次に元受保険会社と再保険会社の間で交わされる再保険契約におけるお金の流れを整理しましょう。元受保険会社は再保険会社に営業保険料のうち出再割合に応じた部分を再保険料として支払い、元受保険会社のリスクを再保険会社に移転することとなります。超過額方式ではなく比例方式を採用した共同保険式再保険であれば、再保険料は営業保険料に比例することになり、営業保険料の何割、という形で決定できることになります。また、再保険会社が元受保険会社に支払う再保険金についても同様です。元受保険会社の支出である保険金、解約返戻金、事業費等すべての支出について、出再割合に応じた額を再保険会社が元受保険会社に渡します。
また、元受保険会社の責任準備金については、保険業法施行規則第71条により、再保険に出再した部分を責任準備金として積み立てないことができます。さっきこんなこと書いてあったなあと思い出してください。
保険会社は、保険契約を再保険に付した場合において、次に掲げる者に再保険を付した部分に相当する責任準備金を積み立てないことができる。
出再された部分は再保険会社側の責任準備金となり、再保険会社に当該部分の責任準備金を積み立てる義務が発生します。このとき、元受保険会社は再保険料を通して責任準備金に対応する資産を引き渡します。
また、共同保険式再保険には契約初期の資金需要に応えるという側面があるので、その目的を果たすために出再保険受入手数料が再保険会社から元受保険会社に渡されます。財務再保険とするための条件には出再保険受入手数料は将来収益に基づく必要があるというものがあり、財務再保険となった場合はこの出再保険受入手数料を収益認識して良い一方で責任準備金の積立に使わなければいけません。
出再保険受入手数料は費差益、死差益、利差益の全部または一部からなる将来収益を基礎とすることがありますが、ここでいう将来収益は再保険に付さなかったら本来得られていたであろう将来の収益を現在価値に割り戻したものという認識がよろしいかと思います。
さて、お金の流れについてざっとみたところで特徴について考えていきましょう。
まず、事務管理が煩雑です。各収入支出をひとつひとつ再保険会社と連携することになります。利差益や死差益に対応する部分の扱いは比較的楽ですが、事業費に関しては対応する区分の事業費を算定する必要があります。1-3「アセットシェア」のところでも事業費の合理的な配賦基準が求められていましたね。つまり、各契約の医務査定費用や営業職員報酬はわかりやすく区分できそうな一方で、会社で誰かが飲んだコーヒー代とか照明のための電気代などはどうやって配賦するのでしょうか、という問題です。契約の頭数で割って、各契約に1000円ずつ賦課することにすると、保険金額が50円の契約にも5億円の契約にも等しく1000円を付加保険料としてかけるというのはなんとなく保険料負担の公平性の問題が発生しそうですよね。ここでは、ある程度の合理性のもとで事務の簡便化を図るために保険料比例として配賦するようです。
元受保険会社は契約初期に新契約費で会計が圧迫されます。元受保険会社としては、初年度だけは出再保険受入手数料を多めにもらって新契約費による圧迫を軽減したいという要求があり(このように新契約費の圧迫を軽減することを目的とする再保険の形態をサープラスリリーフと言います)、そのために再保険会社もまた契約初期に出再保険受入手数料によって圧迫されることになります。再保険会社がかわいそうなことになる対価として再保険契約の利益なんですね。ということで再保険会社がかわいそうなことになることに目を瞑れば、元受保険会社、特に新設間もない保険会社にあっては契約初期に責任準備金に手持ちの資産を充当する必要がなくなり、自社の事業に資本を投下することができます。
また、出再保険受入手数料によって積立られる責任準備金は一定の条件のもとでソルベンシーとして算入することができるため、ソルベンシーマージン比率の向上にも貢献します(平成8年大蔵省告示第50号第1条の3の規定に基づく)。
以上のことから、再保険契約によって収益の安定、出再保険受入手数料の設定によって収益認識のタイミングの変更、効率的な資本活用によって資本収益率の向上およびソルベンシーマージン比率の改善を図ることができます。
元受保険会社のメリットについてみたところで、再保険会社のデメリットについて詳しくみていきます。
再保険会社としてはまず責任準備金の積立義務が転がり込んできます。負債が増えることで資産の増加が抑制されます。嫌ですね。
また、再保険料収入をもとに責任準備金を積み立てることが必要で、元受保険会社が勝手に決めた予定利率に基づく営業保険料を元手に責任準備金積立義務を全うすることが求められます。つまり、共同保険式再保険ではすべてのリスクが移転されるものの、投資リスクに関しては元受保険会社と再保険会社では資産運用政策や能力に程度の差があることから同質とはならない、というものがあります。再保険会社としては嫌ということです。
このことから共同保険式再保険は便利ではあるものの再保険会社の立場が弱いことから毛嫌いされており、主に強い資本関係を持つ会社間で見られる形態となっているようです。
この共同保険式再保険を使いやすいように改良したものが修正共同保険式再保険と呼ばれるものです。
修正共同保険式再保険
修正共同保険式再保険は、共同保険式再保険の一部分を変更した再保険の形態です。実務上の修正共同保険式再保険ではなく、実務上の資産留保型共同保険式再保険のことを法律上の修正共同保険式再保険とするらしいです。ご自身で調べられる場合は注意してください。
平成10年大蔵省告示第233号での共同保険式再保険の説明はこんな感じでした。
前項第1号に掲げる共同保険式再保険とは、受再保険会社が、元受保険契約に係るリスクのうち、当該再保険に付された部分に係るすべてのリスクを出再割合に応じて引き受け、当該引き受けた部分に係る責任準備金の積立て及び当該責任準備金に相当する額の資産の管理を行うものをいう。
修正共同保険式再保険の説明はこんな感じです。
第1項第2号に掲げる修正共同保険式再保険とは、受再保険会社が、元受保険契約に係るリスクのうち、当該再保険に付された部分に係るすべてのリスクを出再割合に応じて引き受け、当該引き受けた部分に係る責任準備金の積立てを行い、元受保険会社が当該責任準備金に相当する額の資産の管理を行うものをいう。
最後の部分の、「責任準備金に相当する額の資産の管理」の主体が異なることがわかります。つまり、責任準備金に対応する資産が元受保険会社から再保険会社に移転されず、投資リスクを元受保有会社がその一部を引き受けるように修正したものと言えます。投資リスク以外のリスクに関しては、共同保険式再保険と同様に元受保険会社から再保険会社に移転されます。よって、負債としての責任準備金は再保険会社が、責任準備金に対応する資産の管理は元受保険会社が行うことになります。
さて、共同保険式再保険を基礎として資産の移転を行わないように修正するため、修正共同保険準備金調整額という調整科目を活用します。投資リスクの移転の程度は修正共同保険準備金調整額の設定によって左右されます。
修正共同保険準備金調整額は期末の責任準備金と期始の責任準備金の運用結果の差額として求められます。なんとなく責任準備金繰入額の式と似ています。共同保険式再保険では再保険料に責任準備金対応資産に相当する部分が含まれていたので、修正共同準備金調整額で払戻しているという具合ですね。平成10年大蔵省告示第233号第1条の七において、元受保険会社と再保険会社は3ヶ月に1回は決済をするように定められていますが、修正共同保険準備金調整額についてもこの決済(再保険料とか再保険金とか)と同時に決済することが一般的であるようです。修正共同保険準備金調整額は責任準備金と運用利率の関数となるため、これらをどのように決定するかが論点となります。
責任準備金は平準純保険料式責任準備金かチルメル式責任準備金か、標準責任準備金かどうかによって変わるでしょう。こちらはあまり設定の余地がなさそうです。
運用利率は修正共同保険式再保険をModuled Coinsuranceと呼ぶことからmod-co利率と呼びます。mod-co利率は元受保険会社と再保険会社が合意のもとで定められ、再保険協約書の記載事項となります。
mod-co利率として誰でも思いつくような設定方法として、元受保険会社による実際の運用利回りを適用することが挙げられます。しかしこの設定方法では元受保険会社に運用を頑張るインセンティブがありません。下手な運用をして大損をこいても、修正共同保険準備金調整額を通して再保険会社が全部補填してくれるからです。ちょっと具体例を出しましょうか。
例えば、次のような状態を考えます。簡便化のために出再割合は100%とします。
・期末責任準備金 110
・期始責任準備金 100
元受保険会社が運用を頑張って10%の運用利回りを出せたとすると、期始責任準備金100と運用利回り10%の積は10となるので、110-100-10=0となって修正共同保険準備金調整額は0となります。
一方で、元受保険会社がサボって運用利回りが0%であったとすると、修正共同保険準備金調整額は110-100-0=10となり、元受保険会社は再保険会社から10の資金をもらえることになります。
さらに、元受保険会社が頑張りすぎて20%の運用利回りを出した場合は修正共同保険準備金調整額は110-100-20=-10となって今度は元受保険会社が再保険会社に対して10を支払わなければならない状況になります。
制度として破綻しているのがわかりますでしょうか。元受保険会社は運用をどれだけサボっても期末責任準備金を積み立てられるので、頑張る理由がないということになります。再保険会社側からしたら、たまったものではありません。元受保険会社の投資成績によって再保険会社は損失を被るリスクがあるということとなり、投資リスクは再保険会社側に帰属していることになります。再保険会社は当然これを嫌がります。
mod-co利率として実際の運用利回りを用いることのデメリットはまだあります。運用利回りは実際の成績に基づく数値なので、運用利回りの値が算出されるまでには時間がかかります。また、運用利回りの計算として売却損益や含み損益の取扱いについても厳密に定義しなければなりません。
一方で、mod-co利率として責任準備金計算基礎率における予定利率を用いた場合は投資リスクは全く移転されないこととなります。再保険会社の負債としての責任準備金はこの予定利率に基づいて増えていきますが、出再保険受入手数料を通して同額だけ元受保険会社への再保険貸が増えるからですね。
mod-co利率としては長期国債など市場の指標を用いるほか、mod-co利率の最低水準を定める、mod-co利率自体は保守的に定める一方で経験割戻に利差益還元条項を設けるといった対応が見られるようです。
財務再保険の恩恵を目的としない場合(ソルベンシーマージン比率の改善や新契約費支出の填補を目的とする場合など)、手続きの簡便化を図るため、四半期ごとの決済を現金の収受を伴わない再保険貸借勘定による手法も存在します。これは資産留保型修正共同保険式再保険と呼ばれています。
元受保険会社目線では、契約初年度(チルメル式責任準備金を採用している場合は契約初期)に出再保険受入手数料によって再保険会社との貸借は再保険会社への貸しが優勢です。契約年度の経過に伴って再保険料の支払いが嵩んで貸しの額が少しずつ減っていきます。出再保険受入手数料が将来収益を正確に反映していれば保険期間満了とともに再保険貸の額は0になります。
共同保険式再保険、修正共同保険式再保険を締結する再保険会社側のメリットとは一体どのようなものでしょうか。
再保険取引が行われる元受保険会社と再保険会社は通常別の地域に所在します。リザービング規制や、資本規制は地域毎に異なるのが通常ですから、リザービングコスト、キャピタルコストが安価な地域に所在する再保険会社に出再することで、保有するよりも有利な条件で再保険契約を締結することができます。
エクセスオブロスカバー
対象契約のいずれかに損害が発生し、その額があらかじめ定めた保有限度額を超過する場合、その超過部分のうちあらかじめ定めた填補限度額を限度に再保険金として回収するものであり、保険料の出再割合と保険金の回収割合が異なるため、非比例式再保険となります。事務手続きが比例式再保険と比べて簡便であることが特徴です。
エクセスオブロスカバーで移転される保険責任は死亡率や罹患率等の発生率関係に限られ、その保険金ペイオフの特徴からもっぱら集積リスクの移転を目的とします。
再保険事故発生の頻度と規模に応じてCat Cover(Catastrophe Cover)とワーキングカバーに分類されます。
Cat Coverは低頻度大規模の保険金支払に関する集積リスクを移転するための形態です。生命保険において保険金支払が同時に起こる状況はそうそうなく、主に災害を起因とするものとなります。そのため、保険事故として災害を原因とすることが定められています。保有限度額を高く設定することにより低頻度大規模損害に対応する形式にするとともに、再保険コストを低くしています。災害を起因とする形式なので、どの地域の契約群団を出再するかによって危険度は大きく異なります。
また、このような大規模災害が発生した場合において再保険金支払能力が確保されることが求められるので、危険分散の観点から元受保険会社とは別の地域で営業を行っている再保険会社に出再されます。元受保険会社と再保険会社が同じ地域にいて、台風で一緒に吹き飛ばされちゃったら保険金支払えませんからね。
そして、日本ではこのような集積リスクを放置できません。低頻度とはいえよく起こってますものね。とはいえ、集積リスクを数理的に分析することは困難です。地理データ突っ込んでシミュレーションするのが関の山でしょう。また、集積リスクというすごく大きいリスクを抱えているものを引き受けてくれる人もそんなにいないでしょう。ちゃんと保険金支払能力を持っている人にお願いしましょう。
一方、未経験のリスクを移転する形態をワーキングカバーと呼びます。
つまり、医療保険のように日額で支払う保険の保険金支払条件を拡大し、支払上限を高めた場合、拡大された部分についての経験を元受保険会社は持ち合わせておらず、このときに再保険会社にワーキングカバーとして該当部分を出再することにより、見経験のリスクを移転するとともに将来自社で賄うために必要な情報を収集することができます。
今はあんまり使われていないみたいです。
ストップロスカバー
保険期間中に発生した元受保険会社が保有する元受保険契約の保険事故全てに対して、純保険料収入に対する支払率が一定割合を超えた場合に、填補限度額として定めた額を上限として、超過支払率に相当する金額を再保険金として支払う形態です。
ストップロスカバーは支払率を基準として元受保険会社と再保険会社の保険責任分担を定めるというのが特徴です。ストップロスカバーによって移転される保険責任は発生率関係に限定されますが、想定を超える保険金給付金支払のリスクを移転する上では有効で、元受保険会社が十分な資本力がない小規模な場合に有効な再保険です。
いろんな再保険があっていろんな目的に使われることがわかりました。
最後に、再保険以外の手法によって同じ目的を達成する方法について検討しましょう。
再保険と類似の機能
保険会社のリスクマネジメント技術の向上により、保険以外の代替手段が出現しています。この代替手段を総称してART(Alternative Risk Transfer)と呼称します。
キャプティブ、証券化、ファイナイトリスク保険について簡単に解説します。
キャプティブ
事業会社が、自社の保険を引き受ける専有の子会社として設立する保険会社のことです。保険契約を締結している保険会社に対して、一部をキャプティブに出再することを依頼し、キャプティブはその全額を出再します。
保険料が過大な事業会社にとっては有効な経費削減策となるが、税制の変更に伴って節税を目的としたキャプティブは見られなくなったようです。なお、グループ間で保険契約を交わす場合は、Arm's Length Ruleという条件を満たすことが求められます。つまり、消しゴム1つを10億円で買ったことにして税金の安い国に資金を移動するというようなズルを認めないために、グループ間であっても他の保険会社と同等の条件で保険契約を締結することが求められます。グループ間の最適化を目的として再保険契約を締結する場合は、「グループ内の保険会社に出した方が安かったわ〜」で通すために、ときたまグループ外の保険会社に出再するということが考えられます。
証券化
集積リスクを資本市場に移転するための手段です。元受保険会社は再保険会社を特定目的会社として設立し、Cat Coverを締結します。特定目的会社はCat Bondと呼ばれる債券を発行し、元受会社から移転されたリスクを投資家に移転します。Cat Bondは一部元本保証型と元本非保証型があり、特定目的会社の保険事故発生の有無によって償還額が変化します。
資本市場の資金が活用できるとともに、投資家からあらかじめ資金が拠出されるために信用リスクを考慮しなくて良いという利点があります。一方、証券化スキームの構築等により、伝統的な再保険よりも割高となり、市場の金融商品との競争環境下で維持が困難になる場合があるという欠点もあります。
なお、主な目的が集積リスクの移転ですから、どちらかというと損害保険の方で使われるものかと思います。
ファイナイトリスク再保険
ファイナイトリスク再保険について確定した定義は存在せず、教科書にも記載はほとんどありませんが、通常保険者が引き受けることができないような大規模、算定困難なリスクについてのリスクファイナンス手法として用いられるものです。移転されるリスクが限定的となることから、この名称となっています。
保険金支払限度額(保険事故1件あたり、1年間あたり、保険期間通算など)が設定されていること、大数の法則が働きにくいオーダーメイドの契約が定められることが多いこと、損害率が低い場合は保険料の返還が行われるが損害率が高い場合は保険料の追徴が行われること、リスクに対応するため長期契約となることが特徴として挙げられるようです。
個人的にはオーダーメイド契約というところで解釈しており、多数の契約者を集めて大数の法則が機能する構造を構築する保険とは大きく異なるような気がします。それが、法制面、税制面、会計面で大きな議論を呼び、その結果として実質的なリスクの移転を再保険契約の要件とする定義が広まったものと解釈しています。
簡単にまとめるつもりが20000文字を超える大作になってしまいました。教科書の記載も難解で理解し難い記述も多く、裏どりにも時間がかかりました。この章について理解の一助となれば幸いです。
コメントしてくださるととても嬉しいです。
[参考文献]